酒と不幸はよく酔える

 職場に酒飲みメンヘラのお姉さんがいた。

 初めはメンヘラっぽくなかった。お姉さんは事務の仕事をしていたのだが、栗色の長髪が綺麗な淑女ってイメージだった。落ちついてるし、良い人と仕事ができるなーと思っていた。
 「一緒に働くことになったし、電話番号交換しましょう」これが全ての始まりだった。

 仕事終わりに電話がかかってくるようになった。お酒が入っているのか、いつもと違ったべらんめえ調だった。
 内容を簡単にいえば愚痴である。「あのハゲオヤジさぁ……私のほうが仕事では先輩なのになんだあの態度はよぉ!」お姉さんは組織立ち上げ時からのメンバーなので、いろいろと葛藤があるようだった。
 ハゲオヤジも相当の猛者で、自分のミスは認めず、お姉さんのミスを「こんなこともできないのかよ」とあげつらうような態度だったので、評判はあまり良くなかった。叱るだけで教えないし。

 そして、俺もお姉さんの加害者となる。
 私生活では「アニメ・エロゲ・寝る」をただ繰り返すだけのウンコ製造機なのだが、職場では意識高い部類に入る。事務を始めて2週間でハゲオヤジが(なぜか)秘密にしていた仕事内容をマニュアル化して誰でもできるようにして、1ヶ月をすぎるとお姉さんとオヤジを指揮する立場になった。なってしまった。なるべく楽な立場になって、早く帰ってエロゲしたかっただけだ。

 ぽっと出の若造が自分より仕事ができるようになったもんだから、お姉さんはさらに鬱憤が貯まるようになった。

 仕事終わりの電話、攻撃対象に俺も含まれるようになった。

 「てめえなんか、いいように使われてるだけなんだよ!」その日のお姉さんは特に荒れていた。こうやって文章に起こすとひでーねーちゃんだなと思うが、基本的には良い人である。安室奈美恵の話をするときはウキウキしてる。たまにアメとかくれる。でも酒が入ると、どうにもならないらしい。

 「いかに自分が不幸か」「いかに周りの環境が悪いのか」それを俺がハイハイ聞いてると「てめえ本当にわかってんのか!そもそもお前もクソなんだよ!!」と攻撃したくなっちゃうみたいだ。ここまで飛躍していると、逆にこっちは冷静に話を聞ける。諭すように聞いた。そこが残酷なところだ。

 確かにお姉さんはバッドラックで、婚約していた彼氏のために前の会社辞めたのに、不景気で彼氏の収入が激減してしまい、婚約破棄というところまで来ていた。お姉さんは若々しいが、30を過ぎていた。

 俺にはどうすることもできなかった。

 お姉さんは前、大きな企業に務めていたプライドがあるらしく「仕事はこうやるのが正しい!」と自分のスタイルを崩さなかった。それが、職場から孤立していく原因となった。忙しく小さい会社だったので、仕事のやり方は日々変わっていた。

 電話は、平均して2時間を超えるようになった。

 こうなると俺の私生活(アニメ・エロゲ・寝る)まで削られかねないので、着信があってもいないフリするようになった。無視だ。そうすると、職場の他の男に電話をかけるようになった。所長が仕事中でも容赦しない、べろんべろんで電話をかける。お姉さんの立場はより危なくなった。

 いろんなものに耐えかねて、お姉さんは仕事を辞めた。どうなったかは聞いてない。

 誰かがもう少し優しかったら、こうならなかったかもしれない。俺はお姉さんを非難する気にはなれない。何かが違っていたら、俺もあぁなっていたからだ。誰もがそうだと思う。
 自分を削ってでもお姉さんを助けたいという気持ちが、俺にはなかった。

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